モバイル(携帯)CDNとは、携帯電話網内にCDNサーバを設置し、携帯電話(スマートフォン)通信を高速化するための技術です。
一方、携帯・スマートフォン向けのコンテンツ変換(トランスコード、再圧縮、HTML変換)機能をCDNに組み込んだものもモバイルCDNと呼ばれていますが、これらについてはFEOの記事(未作成)で解説したいと思います。
また、モバイル網においては、QoS機構を利用した特定トラフィックの高速化(高優先処理)も可能ですが、これについても別記事(未作成)で解説します。
モバイルCDNの仕組み
現在のCDNでは、CDNサーバをP-GW(モバイル網とInternetのゲートウェイ)の近くに配置することが行われています(たとえば、モバイルキャリアの局舎内にCDNサーバを配置する)。この方法は、新しい技術を必要としないため、実現は容易ですか、ドラスティックな効果は見込めません。
一方、モバイルCDNでは、モバイル網内にCDNサーバを上手く配置することにより、通信の高速化およびトラフィック削減を行おうとしています。しかし、モバイル網では、無線基地局(eNodeB)とP-GW間はトンネリング(GTP-U)しており、一筋縄ではいきません。ここからは、現在、試みられている幾つかのアプローチについて解説したいと思います:
基地局(eNodeB)
現在の無線基地局は、Linux等の汎用OSをベースにしたシステムになっています。また、SSD等によるストレージも備えています。そのため、CDNサーバをeNodeB上に実装すること自体は難しくありません。ただし、以下の要因のため、そう簡単に普及する状況ではありません:
ROI
eNodeBは国内でも数十万局あり、明確な効果が見込めない限り、投資は困難です。また、eNodeB上でのアプリケーションサーバ運用自体が未開の領域であり、負荷の高いCDNサーバよりもIoT収集系の軽量なサーバが先に普及すると思われます。
プロトコルの標準化
eNodeB上のCDNサーバは、ラボレベルにおける実装・実験が行われていますが、標準化されていない状況です。そして、モバイルキャリアでは、複数のメーカーからeNodeBを調達しており、きちんとした標準化が行われるまでは大規模なロールアウトは難しい状況です。
バックホール
以上のように、eNodeB上のCDNサーバ実現には、長い時間が必要となっている状況です。一方、バックホール(eNodeBとキャリアバックボーン結んでいるネットワーク)上でのCDNサーバ配置については、以下の2点において基地局より有利です:
- Wifiオフロードの技術が応用できる
- バックホール上の効果的なポイントにCDNサーバを配置できる
実現技術としては、以下の三つがあります:
- GTP-Uハイジャック
- CoMP
- SIPTO
GTP-Uハイジャック
これは、透過型キャッシュを応用した技術になります。ただし、対象とするトラフィックがGTP-Uでトンネリングされているため、トンネルを開く処理が必要になります。また、GTP-UはIPSecで暗号化されている場合があり、この場合、IPSecの秘密鍵をトンネル処理装置と共有する必要があります。
CoMP
4G LTE CoMP (Coordinated Multi-Point)がモバイル網で実装されている場合、CoMPアグリゲートを行っている装置でGTP-Uが終端されるため、このポイントにCDNサーバを配置することが可能です。
SIPTO
Wifiオフロードで使用されるSIPTO (Selected IP Traffic Offload)の先にCDNサーバを配置する形になります。SIPTOには、幾つかの課題(セッション数の増大、コントロール系プロトコル)がありますが、徐々に普及し始めており、有望なアプローチだと思われます。