通信行政の課題


モバイルキャリアによる「通信の最適化問題」が騒がれていますが、その本質的な問題点について考察してみたいと思います。調査が不十分な所については、追って情報を追加します。

通信の最適化

そもそもの通信の最適化技術は、通信にかかわる以下の3者(ステークホルダー)の利益を最大化するための技術です:

  • 配信者(CP)
  • 一般ユーザ
  • 通信キャリア

しかし、日本においては通信キャリアの利益が優先される傾向があります。

価格競争

通信キャリアの利益が優先された結果、日本のモバイル通信料金は高止まりしています。一方、米国では、SprintおよびT-Mobileが価格競争の先陣を切り、それにAT&T、Verisonが追従しています。そして、日本よりも割高だった米国通信料金は、この1年で日本よりも安いといえる状況になりました。

この結果、米国モバイル通信の市場規模は15年ぶりに縮小に転じました。しかし、モバイルによるリッチメディア消費の敷居が下がり、米国モバイルInternetの成長に貢献しているといえます。このような状況を生み出したという意味で、FCCがSprintによるT-mobile買収を拒否した選択は正しかったといえます。つまり、SprintがT-Mobileを買収していた場合、3社が均衡した三すくみ(ナッシュ均衡)に落ち込み、昨年のような価格競争は発生しなかったと思われます。

一方、日本では、三すくみ状況が長く続いており、通信原価が下がっているにもかかわらず、MNO間の大きな価格競争は発生していません(逆説的に、FCCは日本のこのような状況を観察し、SrpintのT-mobile買収を拒否したとも言えます)。価格競争についてはMVNOの成長に期待するところですが、まだそのシェアは全市場の数パーセントであり、日本の通信市場全体に影響を与えるにはまだ時間がかかりそうです。

通信の中立性

海外では、通信の中立性問題が騒がれていますが、その本質は、前記3ステークホルダー(CP、一般ユーザ、通信キャリア)間の利益配分問題であり、パワーゲーム的な要素を持ちます。そして、米国では、通信キャリアよりCP側(Google、Facebook等を含む)の産業規模が大きく、CP側の利益を考慮した政策がとられています。

国内行政

一方、日本のCP産業規模は、通信キャリアよりも小さい状況が続いています(これについては、近い将来に逆転すると思われます)。また、3ステークホルダーの利益は、以下の省庁が代表しています(補足:CPの権利である著作権については、文化庁(文科省)の管轄です):

  • CP:経産省
  • 一般ユーザ:消費者庁(内閣府)
  • 通信キャリア:総務省

そして、本来であれば、通信行政に対しCP・一般ユーザの利益からみた議論が必要です。しかし、縦割り行政の弊害か、活発な議論は存在していません。また、電気通信事業法に対する例外的な運用(帯域制御)についても、通信業界+総務省という形で議論が行われ、CPおよび一般ユーザの利益が十分に反映されないまま運用が行われています。

つまり、通信行政は、すでに通信キャリアの利益のみで議論できる内容ではなく、日本のモバイルInternetをどう発展させていくか、省庁の壁を超えた議論が必要な時期になっていると言えます。

そして、通信キャリアに対する監督についても不十分な状況が続いています。つまり、一般的な課題(高止まりする通信単価、わかりにくい通信プラン等)については、技術に精通していないステークホルダーからの問題提起が可能です。しかし、以下のような技術詳細に対する深い知識が必要な課題については、その識者(技術者)が通信キャリアやメーカにしか存在しません。つまり、CPおよび一般ユーザの利益を代表する技術者が、通信キャリア側と対等に議論をするという状況を作り出すことが必要です:

  • 「通信の最適化」悪用への監視
    • 特定サイト(スピード計測サイト)への通信を優先的に通信させ、ユーザに通信品質を誤認させる
    • 強制的なコンテンツの改変
  • 通信品質の計測
    • 特定キャリアに都合のよい計測方法の排除
    • CP・消費者にとって本当にメリットのある計測方法をキャリアへ強制(その実現コストが高かろうとも、健全な産業育成のために、そのコストを強制)

また、機器メーカ等が、トレンドレポートという形で通信の将来予想を出しています。しかし、それらは機器メーカの上得意客である通信キャリアに都合の良いようにバイアスされていることがあり、内容の精査が必要です。つまり、通信の中立性議論において、機器メーカはほとんどの場合、通信キャリア側の視点で行動します。

まとめ

モバイルInternetは、人々のライフスタイルを代えるだけのインパクトを持つ、大きな産業革命だと言えます。この産業革命を成功させ、日本の国力を拡大するためにも、新しい通信行政が必要になっています。