SSL化によるコストについてサーベイを行った論文(The Cost of the “S” in HTTPS)を紹介します:
The Cost of the “S” in HTTPS
David Naylor氏がACM CoNEXT 2014で発表したShort Paperです。完成度の低いペーパであり読みにくいですが、計測データは非常に面白いものです。是非、原文を読んでください:
ここからは、論文に含まれる主要なデータを紹介します。ただし、元論文においいてグラフのみが示されているものについては”グラフ読み”と記載します。また、元論文の曖昧な記述については、そのまま記載します。
HTTPSの使用率
調査概要
- 調査方法:実トラフィックをモニタリング
- 調査対象:Res-ISP (ヨーロッパのあるISP、加入者数:2万5千)
- 調査期間:2012年8月~2014年9月
調査結果(スライド7ページ)
- 2014年9月
- TCPセッションにおけるWebトラフィック(HTTP+HTTPS)のボリューム比:75%
- WebトラフィックにおけるHTTPS率
- セッション比:44.3%
- ボリューム比:約36%(グラフ読み)
- トレンドの変化
- 2013年4月:Facebookの常時SSL化
- 2014年1月:YouTube動画のSSL化
- 2014年
- WebトラフィックにおけるHTTPSのボリューム比
- アップロード:80%
- ダウンロード:約28%(グラフ読み)
- WebトラフィックにおけるHTTPSのボリューム比
Webページ読み込み時間の増加
調査概要
- 調査方法:ブラウザ(PhantomJS)により対象サイトにアクセス
- 調査対象:AlexaのTop500
- 計測回数:各サイトを20回アクセス
- CRLの扱い:アクセス毎にキャッシュをクリア
- 計測元:3Gモバイル、光接続
調査結果1(スライド11ページ)
- SSLハンドシェイクの最善ケースのオーバーヘッドよりも大きな遅延が見られる:
- 最善ケースのオーバーヘッド
- フルハンドシェイク:2 RTT
- セッション再開(TLS Session resumption):1 RTT
- 最善ケースのオーバーヘッド
調査結果2(スライド12ページ)
- 光接続
- Web ページ読込みに必要な時間の比率(httpsによる読み込み時間/httpによる読み込み時間)の累積分布
- 1.2倍以下:全体の約10%(グラフ読み)
- 1.5倍以下:全体の約85%(グラフ読み)
- 2倍以下:全体の約98%(グラフ読み)
- Webページ読込みに必要な時間増分の累積分布
- 0.4秒以下:全体の60%(グラフ読み)
- 1.0秒以下:全体の80%(グラフ読み)
- 1.5秒以下:全体の95%(グラフ読み)
- Web ページ読込みに必要な時間の比率(httpsによる読み込み時間/httpによる読み込み時間)の累積分布
鍋島補足
実際にページを取得するには、SSL証明書の失効確認が必要となり、次のような遅延が発生します(失効確認についてはSSL証明書のフレームワークを参照ください):
- CRL (Certificate Revocation List)取得
- 一般にサイズが大きいCRLに対する、フルセットのHTTPリクエスト(DNSリクエスト、TCPハンドシェイク、HTTPリクエスト)となり、有効性確認の遅延は大きくなります。
- OCSP (Online Certificate Status Protocol)利用
- 個別の証明書に対するチェックになり、取得すべきものはOCSPレスポンス(有効性確認結果)のみとなり、HTTPで取得すべきファイルのサイズは小さくなりますが、依然、フルセットのHTTPリクエストが必要となるため、遅延はかなり大きいままです。
- OCSP Stapling
- サーバは、サーバ証明書と同時にOCSPレスポンスを送信するため、遅延は基本的に発生しません。
データ流量の増加:SSLハンドシェイクのオーバヘッド
調査概要
- 調査方法:実トラフィックをモニタリング
- 調査対象:前記Res-ISP
- 調査期間:2014年4月のピーク時間
調査結果(スライド15ページ)
- 全体
- SSL通信における、SSLハンドシェイクのオーバヘッド率(ハンドシェイクボリューム/TCP全体のボリューム)
- オーバヘッド10%以下:全セッションの20%(グラフ読み)
- オーバーヘッド42%以下:全セッションの50%
- オーバーヘッド100%:全セッションの22%(グラフ読み)
- SSLセッションを張るだけで、データの転送を行わないもの
- SSL通信における、SSLハンドシェイクのオーバヘッド率(ハンドシェイクボリューム/TCP全体のボリューム)
鍋島補足
ショートセッションでは、SSLハンドシェイクのオーバヘッドが大きくなります。
データ流量の増加:ISPキャッシュでヒットしないことによる通信量の増加
調査概要
- 調査方法:実際に使用されているProxyのログを調査
- 調査対象::ヨーロッパのメジャーMNO(加入者数:2000万)で稼動している透過型Proxy (Trans-Proxy)
- 調査期間:過去2年間のデータ
調査結果(スライド16ページ)
- キャッシュ効果
- 2年間の平均ヒット率
- セッション数ベース:14.9%
- 2年前:16.8%
- 2014年6月:13.2%
- ボリューム数ベース: 15.6%
- 1日あたりの平均削減トラフィック(全体):16TB
- セッション数ベース:14.9%
- 2年間の平均ヒット率
- 再圧縮、トランスコード効果
- 通信ボリュームの削減率:28.5%
- 1ユーザあたり2.1MB/日の削減
- 通信ボリュームの削減率:28.5%
電力使用量の増加
調査概要
- 調査方法:スマートフォン実機の消費電力を計測
- 調査対象:Galaxy S II
- 調査間隔:200μ秒
調査結果(スライド19ページ)
- 純粋な意味での消費電力増加は認められなかった
- テストサイト(1KB~10MBのファイルダウンロード、CNNのミラー)
- 実サイト(Youtube)
- 3G環境における実サイト(Youtube)の視聴おいては、Proxyが介在することにより消費電力の差異が認められた
- SSLにより消費電力が増加:Proxyのトランスコードが利かなくなり、オリジナルサイズのコンテンツをダウンロードするため。
- SSLにより消費電力が減少:Proxyの帯域制御(ビデオペーシング)が利かなくなり、短期間でコンテンツをダウンロード可能となる。この結果、3G 無線の使用時間が短くなり、消費電力が減少する。