ネットワークの中立性問題
定義
ネットワークの中立性問題では、よりよいネットワーク環境を実現するために、一般に以下の二つを議論する:
- 狭義:ネットワーク事業者にデータを平等に扱わせることを強制するか?
- 通信事業の原則(ユーザやデータの種類によらずデータを平等に扱う)をどこまで守らせるか?
- 広義:ネットワークのコスト負担をどう分配させるか?
- ユーザ、ネットワーク、OTT(Over The Top、非ネットワーク事業者)に対し、ネットワークコストをどう負担させるか?
実効的な意味合い
実効的には、業界をまたぎ、かつ規制の議論となるため、民間での議論ではなく、以下の政策論と捕らえられる:
- ネットワークを提供する事業者に対する政策論
- ネットワーク事業者を優遇すべきか規制すべきか
より具体的には、以下の二つの事業グループのどちらに有利な政策を打つかという問題になる:
- ネットワーク事業者
- OTT事業者
そして、ネットワーク事業者に対する規制事項としては以下のような項目がある:
- 「通信の秘密」の侵害をどこまで許すか?
- 各種データ操作を行うために通信の中身をのぞき見る
- データを不平等に扱うことをどこまで許すか?
- 帯域規制
- 特定条件の通信を帯域規制する(P2Pなど)
- 通信の無料化(ゼロレーティング)
- 特定条件の通信を無料化する(自社サービス、動画など)
- 優先処理
- 特定条件の通信を優先処理する(VoIP、特定サイトなど)
- コンテンツ変換
- 強制トランスコード
- 帯域規制
各国の状況
- 日本
- 電気通信事業法
- 通信の中立性は「利用の公平」として定められる
- ゼロレーティング
- iモード等において、キャリアサービスのパケット無料が行われる
- 2004年に「FOMAパケットフリーサービス」が開始
- 2016年以降、大きな議論もなくゼロレーティングを実施する会社が増加
- 総務省報告書
- 2007年
- 3大原則
- 消費者がネットワーク(IP 網)を柔軟に利用して、コンテンツ・アプリケーションレ イヤーに自由にアクセス可能であること
- 消費者が技術基準に合致した端末をネットワーク(IP 網)に自由に接続し、端末 間の通信を柔軟に行なうことが可能であること
- 消費者が通信レイヤー及びプラットフォームレイヤーを適正な対価で公平に利 用可能であること-
- 帯域制御の運用基準に関するガイドライン
- 2008年3月18日発行
- P2Pトラフィックに対する帯域制限に関する業界ガイドライン(総務省もオブザーバとして参加)
- P2P対策として(通信の秘密およびネットワーク中立性・利用の公平を侵害する)帯域制限が実質的に許される
- 電気通信事業法
- 米国
- オバマ大統領(共和党)は、OTT事業者サイドであり、「ネットワークの中立性」を強制する立場をとっていた
- インド
- Prohibition of Discriminatory Tariffs for Data Services Regulations, 2016
- 2016年2月28日
- アクセス先により課金を差別することを禁ずる(Zero Ratingの禁止)
- Prohibition of Discriminatory Tariffs for Data Services Regulations, 2016
CDNとネットワークの中立性
CDNは「配信代理サービス」であるが、その事業構造は「大量に安く回線を仕入れ、それを小分けにして販売する」というシンプルなものである。CDN事業者はあらゆる手段を使い「回線を安く仕入れる」施策をとっている。この施策が、「ネットワークのコスト負担をどう分配させるか?」という広義のネットワークの中立性問題に深く絡んでくる。
代表的なCDNの施策には以下のようなものがある:
- 国内ISPに配信サーバを無料で配置してもらう
- 国内ISPの受信コストおよびCDNの配信コストの両者ともに低下する。ただし、このトラフィックは、大手ISPであればCDNに対して販売できたものである。つまり、費用負担は、OTT(CDN)とネットワーク(ISP)の力関係に依存するという「中立性問題」そのものである。
- Tire 1キャリアの国内拠点にCDNサーバを配置する。これにより、CDNサーバが配信するトラフィックはTire 1が提供するトランジットトラフィックになる。
- Tire 1にとって、CDNサーバは国際回線のコストなしにトラフィックを生成してくれるサーバであり、無料で配置しても利益が発生する。しかし、この無料化についてもTire 1とCDNの力関係に依存する(強いTire 1はCDNに課金する)。
- レイテンシに対する許容度が高いサービス(ビデオ配信、制御機器系のファームウェア配信など)に対しては、配信コストの安い海外から配信する。
- 国内ISPの受信コストは増大するが、CDNの配信コストは低下する
最初の2つについては、CDNとISP間における、以下のようなパワーゲームとなっている:
- ISPの主張
- 大手ISP
- 大量のユーザを抱えており、良質な配信サービスを提供するには、有償でもCDNサーバをおくべき
- 中小ISP
- ユーザは少ないが、コストを下げたいので、無料でCDNサーバをおいてほしい
- 大手ISP
- CDNの主張
- 対大手ISP
- 大量のコンテンツ配信しており、良質なISPサービスを提供するには、無料でもCDNサーバをおくべき
- 対中小ISP
- CDNサーバは高価なので、ユーザの少ないISPにはおけない
- 対大手ISP